「頭痛、肩こり、神経痛に……」、「肩の凝り、腰痛に……」
新聞、雑誌、テレビでこのような鎮痛剤の広告コピーをよく目にすることと思います。現代病とも言えるこれらの痛み、このホームページをご覧になられた方はきっと、この種の痛みに悩まされていた、もしくは現在お悩みになっていることでしょう。
痛みはさまざまな病気の始まりである場合が多く、私たちが生きていく上で身体の大切な情報を送ってくれていると言えます。
身体に痛みがあるということは本当につらい不幸なことです。どうすれば痛みから解放され、快適な日常を送ることができるのでしょうか。
原疾患が臓器にある場合はその治療をすることで解決します。また神経に痛みの原因があるときは、これまでは内科や外科、整形外科、脳神経外科などで対症療法がなされてきました。
さて、ペインクリニックは痛みを治すことを専門とする外来です。主に麻酔科医が痛みに対しての正しい知識のもとに麻酔の技術を応用し、痛みの原因となる神経に直接鎮痛を得られるように治療し、確実に成果を挙げていきます。
ペインクリニックで扱う痛みの種類としては、
頭痛、肩こり、腰痛はもちろんのこと、顔面神経麻痺や肋間神経痛、そして最近特に増えているのが帯状疱疹とそれに伴う帯状疱疹後神経痛です。2020年春に新型コロナ感染症の蔓延が始まってから自粛生活を余儀なくされ、仕事や生活のストレスを抱えた方も多いと思いますが、ストレスによる免疫力の低下が影響しているのでしょうか、最近、帯状疱疹に罹る患者さんが増えて来ているような兆しが見られます。
帯状疱疹は皮膚疾患としての病名ですが、その本体は水ぼうそうウイルスによる神経破壊、それによる強い痛みが主な病態で、二次的に現れるのが皮膚の水疱形成です。皮膚の病変が治っても痛みが残るのは神経のダメージが大きいことが原因なのです。
水ぼうそうにはほとんどの人がかかったことがあると思います。
幼少期に感染した水ぼうそうウイルスは、水ぼうそうが治っても身体の中に居残り、知覚神経に沿ってその神経の根元まで行って潜伏します。頭部では三叉神経、首から下では脊髄神経節に潜んでいます。
普段はそこでおとなしくしているのですが、身体全体の抵抗力が下がった状態になると、ウイルスが相対的に元気になり、神経の末梢に向かって神経炎を起こし、激しい痛みを発症します。
顔面や腕、胸部、腹部、下肢、それも右か左のどちらか(左右両方に現れることはありません)にこれまで経験したことのないような強い痛みとして出現し、その数日から1週間ほど後に発赤に水疱形成を伴う皮膚病変が現れます。
痛みは特徴的なもので、針で刺されたような、焼け火ばしをつけたような、電気が走る、などといった普段は経験しないような性質の強い痛みが瞬間的に現れ、断続的に続きます。痛みで夜眠ることができない、といった訴えも珍しくありません。
帯状疱疹は早期発見早期治療がとても大切です。
皮疹が出れば確定しますが、皮膚症状が出る前であっても、痛みの性質から帯状疱疹を疑って治療を始めることができます。
治療は、発症早期なら抗ウイルス薬、鎮痛剤の内服、そして抗凝固薬などを継続して服用していなければ神経ブロックによる治療をおこないます。
頭頸部、上肢なら星状神経節ブロック、体幹、下肢であれば硬膜外神経ブロックが有効です。
初期治療がしっかりと行われたならば神経痛を残すことは少ないのですが、治療が十分でなければ皮膚の症状が消えた後に帯状疱疹後神経痛としてなかなか厄介な神経痛を残してしまいます。いわゆる“神経痛“と称されている痛みはこの帯状疱疹後神経痛であることが多いようです。
このブロックは神経に直接針を刺すのではなく、神経節の周囲の疎らな組織に局所麻酔薬を注入することで、薬剤が拡がって星状神経節に作用します。患者さんはベッド上に仰向けになり、リラックスした状態で正面を向きます。頸部を消毒した後に局所麻酔薬を5mlほど注射します。15秒ほどで終わる手技です。針が皮膚を貫く時にわずかに痛みを感じますが、ブロック自体は全く痛くありません。
ブロック後数分で効果が現れ、ブロックした側の顔や手がボーッと温かく感じられて来ます。眼が充血したり、まぶたが下がってきて重く感じられたり、鼻が詰まったようになったりしますが、これらは全てブロックによる有用な効果です。頭頸部や上半身の帯状疱疹にはこのブロックを1日1回、1週間から1ヶ月ほど続けます。
身体には交感神経、副交感神経という相反する作用を持つ生体の恒常性を維持するための機構が備わっていて、硬膜外ブロックではこの交感神経と知覚神経の機能を抑えることで末梢の血管が拡張して血の巡りが良くなり、神経の損傷部位の炎症や浮腫を取り除くことができるのです。
通常は単回施行ですが、痛みの程度が強ければ細いチューブを留置してブロックを持続的に行うことで治療することも可能です。
硬膜外神経ブロック
不幸にして神経痛が残ってしまった場合、神経ブロックに加えて神経の異常興奮を抑えるような薬剤、頭の中のホルモンのバランスを調整して痛みを軽減する薬剤、直接痛みの受容体に作用して痛みを抑える薬剤などを微妙に調整しながら痛みをとっていきます。
まずはさわりとしてペインクリニックで治療する疾患、治療方法を紹介させていただきました。
今後、第二弾、第三弾と続きます。楽しみにお待ちください。